2021年アパレル経営環境どう「適応」するかではなく、どう「あるべき」かが重要
皆さま 新年明けましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
2021年 緊急事態宣言を受けてのアパレル業界
さて、新年早々でありますが、新型コロナの感染拡大により、とうとう2回目の緊急事態宣言の発出がなされてしまいました。
今回は飲食を中心とした「急所」に対策、規制がなされるようですが、消費マインドという観点からはアパレル業界も決して油断できない状況と言えるでしょう。
アパレル業界への影響
特にアパレル業界では昨年度も暖冬の影響を受け秋冬物の消化が進んでいませんでした。
今回もセールの時期を直撃しており秋冬物の在庫消化が懸念されるところです。
どちらにせよ2021年度もアパレル業界にとっては厳しいスタートを余儀なくされているものと考えます。
こうした経営環境が続くと多くのアパレル経営者は「環境への適応」を考えるようになります。
そこで今回はコロナ禍における「環境への適応」をテーマに本ブログを作成しました。
アパレル経営における「環境への適応」
恐怖や危機におかれると人は、「環境に適応しよう」とします。
これは人間の本能とも言えますので当然と言えば当然でしょう。
また「進化論」で有名なダーウィンが言ったとされる次の言葉もこの考え方の背景にあると言えるでしょう。
「唯一生き残ることができるのは、変化できる者である」
自然科学で言われる法則を会社経営にも当てはめているわけですが、経営分野の専門家やコンサルタントにおいてもこうした言葉を引用し、「環境への適応」の必要性を説く方も少なくありません。
政府の環境対応策
また国の方でも「事業再構築補助金」という中小企業支援策を打ち出し、中小企業の「環境への適応」を支援しています。
これは新型コロナにより影響を受けている企業が、「新分野展開や業態転換、事業・業種転換等の取組、事業再編又はこれらの取組を通じた規模の拡大等を目指す」取組を支援する補助金で最大6,000万円、補助率2/3(通常枠)を支援するものであります。
この活用事例の中には「衣服販売業を営んでいたところ、コロナの影響で客足が減り、売上が減少⇒店舗での営業規模を縮小し、ネット販売事業やサブスクサービス事業に業態を転換」といった活用例も表記されています。
詳しくはこちらをご覧くださいませ。
当社ではこれらの考え方や、国の補助金の制度について批判するつもりはありません。
しかし、アパレル経営において、この「環境への適応」という考え方には非常に大きな危険を持ち合わせていると考えています。
こうしたことを言うのはおそらく当社だけでありますが、今回はその3つの理由と、当社の見解についてご説明したいと思います。
環境適応への危険性
1)間違えた方向に「適応」してしまう可能性
先ほど引用しましたダーウィンの言ったとされる言葉ですが、概ね経営の場では次のような解釈で使われているように言えるでしょう。
すなわち、「経営環境の変化に対応出来ない、変われない会社は存続できない。ゆえに環境変化に常に適応していかなければならない」ということだと考えます。
ここに関しては誰も否定することはないでしょう。アパレル業界においても時代の変化に適応出来ていないブランドや店舗は淘汰されていくわけであります。
しかし、自然科学においてこの前提は疑問視されています。
ダーウィンはこのように言っていないという学説もあります。
この点については割愛いたしますが、実際に環境へ適応できずに絶滅した生物をみてみましょう。
これは次の書店で良く見かける「わけあって絶滅しました(ダイヤモンド社)」という書籍を見て見ると解りやすいでしょう。
当社でも購入し、どのような種が絶滅しているのかを興味本位ですが見てみました。
この書籍に掲載されている動物達を一部見てみますと
・牙の長いサーベルタイガーという哺乳類
・首が長くなりすぎたマメンチサウルスという恐竜
・特殊なくちばしを持つユミハシハワイミツスイという鳥
その多くは個性的な特徴を持つ生き物です。
そしてこの個性的な特徴も環境に変化しなかったわけではなく、特定の環境に適応して変化した結果、そのような個性的な特徴を持つに至っていたわけであります。
環境に対して何も変化しなかったわけではなく、変化をした結果、新たな環境に合わなくなり死滅したということになります。
逆に生物学的に変化をしていないのに生き残っている種もあります。
典型的なのはゴキブリで、恐竜が誕生していない2憶6000万年前より今に近い形で生き残っているようです。
また何の特徴もないネズミのようなオポッサムも1億4000年前の白亜紀より生存していると言われています。
つまり何が言いたいかと申しますと
厳密に言えば、「変化できる者」が生き残るのではなく、「間違えた変化(適応)」をしていない種が結果的に生き残っているということです。
昨今の生物学でも進化論はこのように解釈されているようであります。
また絶滅した種の特徴を見ると環境に過度に適応した結果、体や生物としての機能が特徴的となりすぎ、次の環境へ対応出来なくなっているという傾向もあります。
過度な「環境への適応」が仇となる可能性もありますのでここも注意が必要でしょう。
要するに変化することが重要なのではなく、その環境への変化の方向性やその内容の方が重要ということであります。
場合によってはゴキブリやオポッサムのように「変化しない」という選択肢もあるわけであります。
2021年になってもコロナ禍は続いていますが、アパレルにおける経営環境への適応にはこうした視点も必要だと考えるわけであります。
何度も言いますが変化すること自体が重要なのではありません。
その方向性が重要ですのでここは間違えないで頂きたいわけであります。
2)「環境への適応」その経営判断の根底にあるのが「恐怖」である場合
環境への適応、変化の方向性を考える際に、非常に重要な点があります。
それは、その適応の方向性の判断がどこからくるものなのかということです。
適応の方向性が自社の「経営理念」や「事業目的」、また「コンセプト」から導き出される方向性であれば問題ないでしょう。
しかしアパレル業界において、現在耳にする経営環境への「適応」の仕方を見ていると、その方向性を間違えているのではないかという事例をよく目にします。
例えば
・異業種に進出しようとしたアパレル小売業
・ノウハウも無いのにネット販売をはじめるアパレル小売業
・マスクや防護服の受注にシフトした縫製工場
こうした事例を実際に見るところであります。
テレビのビジネス番組的には「環境に適応しようとする中小企業」という形で肯定的に報道されるわけでありますが非常に危険な経営判断であると当社では考えています。
また当社のクライアントがこうした発想を始めた場合はまずもって再考を勧めています。
なぜこうした経営判断や舵取りに陥るかというと、その根底にあるのが「恐怖」や「不安」であるからです。
つまり、生き残りたい、事業を存続させたい、雇用を守りたいといった恐怖や不安から、コロナ禍という今の環境への適応を考え始めるわけであります。
そうすると先ほどの事例のような方向に舵取りを始めるわけであります。
ここで問題なのは、「恐怖」や「不安」からくる方向性、つまり事業や商品には何の面白味もなく結果的に消費者からも共感が得られないということであります。
例えばこんな事例を見たことがあります。
経営が厳しいアパレルメーカー様でありました。
その危機感から、経営者が次々と新しい事業や新商品を打ち立てていきます。
しかしその発想は、危機感や不安からくるものですので何の魅力もありませんでした。
こうした商品やブランドには不安感や助けて欲しい感がにじみ出てきます。場合によっては見ていて「イタタ・・」というものもあります。
こうしした新事業や新商品に面白味やワクワク感がありませんので従業員からもお客様からも共感を得られないわけであります。そして失敗するわけでありますが、また次の事業や新商品を打ち立て更に傷口を広げていくわけであります。
また、売れていないブランドの企画担当者や、店舗のバイヤーの事例もご説明致します。
売れていないブランドの企画担当者や、店舗のバイヤーは、その危機感から、何とか「売りたい」「売りたい」と考えるようになります。
そうすると企画自体や、品揃えが間違いなく面白くない方向に流れていきます。
自社にしか出来ない企画、コンセプトに沿ったチャレンジングな企画は無くなり、他社で売れているものや、昨年売れたものの焼き直し企画を始めたりします。
そうなると最後、結果はやはり売れないわけであります。
この点については当社のコンサルティングを受けられている方であればご理解頂けると思います。
アパレルに限らず「生活を豊かにする」という商財を扱うビジネスの場合、「恐怖」や「不安」から方向性を考えてしまうとこのような残念な結果となってしまいます。
なぜなら「恐怖」に駆られている方には「生活を豊かにする」というクリエイティブ、ポジティブな発想が無くなります。
事業を行う動機が「助かりたい」となっているわけですのでこうした発想が出来なくなるわけであります。
ファッションを通じて人々の生活を豊かにしたり楽しませたりするビジネスでありますので、ここは非常に重要となるわけであります。
こちらも当社のコンサルティングを受けられている方であればご理解頂けると思います。
3)他と「同質化」していく
そして次に、環境適応の方向性を誤るとどうなるかについてご説明を致します。
「恐怖」や「不安」から環境への適応を考えると、概ね考える方向性は同じとなります。
先ほどの例のようにノウハウのない異業種への進出や、ネット販売への参入、マスクや防護服といった創られた需要にすがるようになります。
「恐怖」にかられた方が考えることは皆同じとなるわけであります。
ここまでご説明すれば行きつく先はご理解できるかと思います。
環境適応という言葉のもと、多くの会社が同じ方向に舵取りをし、競争の厳しいレッドオーシャンに飛び込んでいくわけであります。
まさに「赤信号みんなで渡れば怖くない」というわけであります。
こうした危険性については、前回の緊急事態宣言下(2020年4月29日)に投稿した当社のブログ
でもご説明しておりますので、こちらもご覧頂ければと思います。
新型コロナ緊急ブログ② コロナ禍影響下 アパレル経営で注意して欲しい「3つの罠」
以上、アパレル経営における「環境への適応」の危険性についてご説明してきました。
ここからはこうした危険性に陥らないために重要な点についてご説明したいと思います。
アパレル経営「環境への適応」の方向性を間違わないために
再びの緊急事態宣言が出され、混乱している時期においてはこの状況が永遠に続くように雰囲気があります。
感染症の専門家の中には、「新しい生活様式」「ニューノーマル」といった生活感が今後も長期間続くと唱える方々もおられます。
また経済、経営分野における専門家やコンサルタントの中にも「元にはもどらない」「環境への対応を」と唱える方々もおられます。
このような言葉を聞くと「恐怖」や「不安」にかられ、「環境への適応」をしなければと考えるわけであります。
こうした中で重要なのは今の環境がどのようなものなのか冷静に見ていくことです。
当社では前回の緊急事態宣言下(2020年5月10日)に投稿した当社のブログで今後の消費市場について「市場は元にもどる」と予測させて頂きました。
新型コロナ緊急ブログ④ アフターコロナにおける「ファッションの役割」
その後の市場の動きを見て見てもこの予測は間違っていないと確信しています。
ただし元にもどるものともどらないものがありますのでこの辺は別の機会で整理させていただきます。
また冷静に考えていくためには過去の考察も必要です。
今の「環境」だけを見てしまうと見えなくなってしまいますが、少し大きな視点で見ていくと冷静に判断できるかと考えます。
かつてここまでの規模による感染症による危機はどれくらいあったでしょうか。
歴史上もっとも近いものであっても、4~5千万人が死亡したと言われる1919年のスペイン風邪、その前は5千万人が死亡されたとされる1520年の天然痘、その前は2億人が死亡されたとされる1351年のペストです。
(ちなみに2020年の新型コロナの死亡者数は全世界で約180万人 日本では約4千人)
つまり世界的に深刻な感染症は100年から400年の間隔で到来しているわけであります。
だからといって2~3年後に到来しないとは言えないわけでありますが、100~400年周期で到来する環境に本気で適応していくことが経営判断として正しいことかどうかは冷静に考える必要があるでしょう。
誤解しないで頂きたいのは、だから感染症対策をしなくて良いということを言っているのではありません。
新型コロナを前提とした「新しい生活様式」「ニューノーマル」といった環境に適応する形で、ビジネスモデルの大きな変革や、業態や業種を変換していくという経営判断に戦略性があるのかということを言っている訳であります。
また、2011年に発生した東日本大震災の事例をご説明いたします。
3月11日の大地震によりほぼ一夜にして2万2000人の方が亡くなったという非常に悲しい災害がありました。
この時起きた不動産市場での事例をご説明いたします。
それは海岸周辺の土地が殆ど動かなくなったということであります。
それは津波被害の事例のない湘南の海岸周辺(茅ヶ崎、平塚など)でも起こりました。
あのような悲惨な光景を見ているわけですので海岸周辺は危険、絶対に住みたくないとなるわけであります。
ある不動産業者の中には、今後数十年は、海岸近くの物件は売れないと説明する方もおられました。
この時も「元にはもどらない」と言われていたわけです。
当時もこうした言葉を疑う人はいなかったわけであります。
しかし実際はどうでしょうか。
確かに1~2年は海岸沿いの不動産は厳しい状況でありました。
しかし3年目あたりより動きが戻りはじめ現在では普通に売れているわけであります。
もちろん被災地ではそうともいかないわけでありますが、新型コロナにおける変容した消費市場にも近い将来こうした事象が起きるものと予測しています。
以上、コロナ禍という「環境」の考察をしてきましたが重要なのは「環境への適応」は冷静に判断していくことが方向性を間違えないためには必要だと考えます。
経営判断の基準を「恐怖」ではなく「経営理念」「事業目的」「コンセプト」に置く
これは当然のことでありますが、「恐怖」に捉われると、知らないうちにいつの間にかこの視点を見失うことがしばしばあります。
そこで改めて自社の「経営理念」や「事業目的」「コンセプト」といったものを思い起こし適応する方向性を考えるべきだと思います。その結果、ビジネスモデルや業態も変更しないという選択もあるのかもしれません。
しかしだからと言って「何もしなくても良い」と言っている訳ではありません。
参考までに当社のクライアントの例をご説明いたします。
ある多店舗展開するアパレル小売店では、この時期の新規出店は断念したものの、近い将来の新規出店に備え、この期間を人や組織の強化を図る時期と捉え組織改革、プロセス改革に取組んでいます。
組織強化のために外部から幹部採用も行う予定です。
ある縫製工場では、この時期は社内体制を強化する時期として考え、生産管理体制の強化や教育制度の変革に取組んでいます。
あるライフスタイルショップチェーン店では、今後の10年を見据え、よりコンセプトを明確にし、ブランディングやMD改革に取組んでいます。
なぜこうした取組みをしているかと言うと、これらのクライアントの「経営理念」や「事業目的」「コンセプト」から考えると、ビジネスモデルの大きな変革や、業態を変えるといった選択肢はないからであります。
つまり「環境へ適応」というより、自らの「経営理念」や「事業目的」「コンセプト」に基づき「どうあるべきか」を考え、そこへ向けて改革を進めているわけであります。
ここまでご説明しても「それで生き残れるのか」という方もいらっしゃるかもしれません。
しかし上記のクライアント様の中にはコロナ禍においても、過去最高の売上、利益を実現している会社様もおられます。
自らの進む方向性を間違えず、改革し進化していくわけですから業績がついてくるのだと考えます。
他と「同質化」しない
ここまでご説明してきまとお解りになられる方もいらっしゃるかと思います。
「環境への適応」の方向性を間違えず、自社の「経営理念」や「事業目的」「コンセプト」に基づき「どうあるべきか」を考え改革や進化をしていくと、他と同質化していくことはないでしょう。なぜなら会社や店舗により「経営理念」や「事業目的」「コンセプト」は違うからであります。
そして、その結果到達するのが、差別化、ブランド化、高収益化だと考えています。
方向性を見誤らずそこへ到達して頂くことを願っております。
以上、アパレル経営における「環境への適応」をテーマにご説明させて頂きました。
年始ということもあり経営の方向性を考える時期かと思いますのでご参考にして頂ければ幸いです。
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