アパレル業界におけるコロナ禍の影響や対策については、これまでの緊急ブログや、緊急冊子でご説明してきたところでございます。
緊急事態宣言が解除され1ヶ月半が経過したところでありますが、現在7月9日時点にて把握している状況と、今後の影響の予想についてまとめさせて頂きました。
コロナ禍における消費推移の予想
当社では、コロナ禍におけるアパレル消費推移について次の図のように考えています。
横軸が時間軸です。
縦軸の上が消費動向で、赤線の折れ線が消費水準、点線部分がコロナ前の消費水準となります。
この消費横行のフェーズを、①休業・自粛、②反動消費、③「売上・在庫・生産」の需給調整期間、④消費不況の4つに区分しています。
また縦軸の下に、社会情勢における大きなイベントを記載しています。
言葉で説明するより図で見て頂くとご理解しやすいかと存じます。
以下、①~④のフェーズをご説明いたします。(クリックで拡大)
「休業・自粛」期間
緊急事態宣言最中の4月、5月でありますが、こちらはメディアも言われます通りアパレル業界は惨憺たる状況であったと感じています。
しかし同じアパレルでも、販路(百貨店、SC、郊外店、路面店)、地域(都心、地方)、ターゲット層(年齢、性別)、業態(メーカー、商社、小売り、工場)により影響の出方は様々であると感じております。
販路別には昨対50%にも届かない百貨店テナントもあれば、諸々の要因で昨対100%を超えている個店や郊外大型店もあります。
これは、緊急事態宣言による休業対象になった施設やならなかった施設による影響です。
地域別では、都内を中心とした首都圏ほど影響が強く、地方ほど影響は少ないように感じていますが地域内でも傾向が異なっています。
ターゲット層(性別・年齢)でも異なる結果が出ているようにも見えます。
中高年男性層の消費が弱く、一見コロナの影響を受けそうもない若年層をターゲットとしているほど影響を受け、女性中高年層をターゲットとしている先ほど影響を受けていなかったという事象も確認されています。
これは新型コロナウィルスという影響により、どれだけ経済的に影響を受けているということではないかと推測しています。
業態別では、小売への影響は先ほどご説明した通り様々です。
メーカーでは深刻な状況になっているにも関わらず、商社は2020AWの企画に力を入れているところもあり、縫製工場では稼働率が上限に達しているところもあります。
このように5月の影響はアパレル業界全般で強く受けていますが、その影響度にはバラツキがあるという傾向が確認されています。
「反動消費」期間
自粛が解除され遠出はしないものの、6月のアパレル消費は自粛の反動消費で昨対100を大きく超えているところも多くあります。
地域、販路、ターゲット層によってもバラツキがありますが、ポイント還元、定額給付金の恩恵が出ているのは間違いないと考えています。
7月~8月もセール期間と相まってこの傾向は続くと考えられます。
メディアの報道では「消費は回復している」といった表現で説明されていますが、2~3ヶ月止めていた反動消費が起きているだけで、この期間の状況を見て「回復」と判断するのは難しいと考えています。
「売上・在庫・生産」の需給調整期間
ここからが今後の予想となります。
まず供給面から見ると、アパレル・ファッション業界では昨年度の暖冬により、2019AWでは大きな利益が得られていません。
重衣料は早い段階から在庫消化ベースで利益が得られず、未消化の在庫を残してシーズンを終了した企業様も多くあります。
そうしたあと、2020年SSが始まったところでコロナ禍の影響を受け始めました。
2020年SS商材は、ほぼセール消化に近い形での在庫処理を強いられ利益が出しにくい状況と考えられます。
またメーカーでは展示会の中止などにより2020年AWの仕込みが十分に出来ていない状況です。
つまり2020年SSである今の売上も、2020年AWである次のシーズンの売上もネガティブで十分な利益が捻出できる状況となっていないわけです。
また需要側から見ても2020SS商材は着る機会も少なく、2019AW重衣料も暖冬のためタンス在庫として蓄積されています。
さらにリストラ、残業代や賞与の減少を強いられる家計もありますので消費自体が縮小していきます。
供給、需要面からみても、アパレル業界はこうした状況でありますので、業界全体としてしばらくは「売上・在庫・生産の需給調整期間」が続くと考えられます。
そしてそれは業界全体では、事業の縮小、店舗のリストラ、倒産・廃業といった形で現れるものと考えられます。
個々の企業でも生産、企画の縮小、店舗のリストラ、在庫消化、人員整理といった形で現れるでしょう。
こうした需給調整の期間が2021年春夏まで続くと考えられますし、大手中堅アパレルの倒産など既にその兆候は見て取れます。
どちらにせよ個々のアパレル企業にとっては在庫調整・生産調整の中で売上も維持しなくてはならないという難しい期間が続くことになります。
そしてこの期間は次の「④消費不況期間」と並行して進むことになりますので、赤線のアパレル消費水準はじわりじわりと減少を続け、アパレル業界にとっては最も厳しい期間になると考えられます。
「消費不況期間」
上記「③売上・在庫・生産」の需給調整期間は2021年春夏前後まで続くと推測されますが、同時期に東京オリンピックや、ワクチン、特効薬の開発も期待されます。
いよいよアパレル消費回復に向けた明るい時期が来るようにも思われますが、そうはいかないと予想しています。
なぜならアパレル業界の③のような需給調整と並行して、マクロ経済的な消費不況に突入する可能性が高いからです。
この「消費不況」については次のブログに掲載しております。
5月9日に掲載したものでありますが、現時点での指標を見てもほぼこの方向になるのではないかと推測しています。
新型コロナ緊急ブログ③ アフターコロナでアパレル市場はどうなるか? 経営者が判断すべきこと
そして、2021年春夏からのアパレル消費の動向には、楽観論と悲観論があります。
楽観論は、コロナ前の消費水準に戻らないまでも徐々に回復していくシナリオ。
悲観論は不況の底が見えずズルズルと長期低迷が続くシナリオです。
経済学者の中には後者の恐慌レベルの不況が到来し長期化すると説明するかたもいます。
どちらにせよ、バブル崩壊後の不況から回復するのに約20年、前回のリーマンショック不況から回復するのに約5年の期間を必要としていますので短期的にV字回復するというシナリオは考えにくいものであります。
当社としてはこうした予想が外れることを切に願っていますが、データから見るにこの可能性が高いと予想しております。
当社では、コロナ禍以前の2020年2月7日において、2019年度 アパレル・ファッションビジネス業界は 「不況?」 だったのかというブログを掲載いたしました。
昨今、メディア等で言われる「アパレル・ファッション業界は不況だ」といった議論を否定してきたわけであります。
なぜそうしたブログを掲載していたかと言いますと、こうしたぬるいことを言っていると、今回のように本当の不況が来た時に生き残れないからであります。
アパレル消費の動向と今後の予測(まとめ)
日々メディアでは連日の感染者の増加より、「第二派」が到来していると危機感を煽る報道されています。
しかしデータから見れば、新型コロナに感染して死亡する確率は、日本においては、朝家を出て交通事故で死亡する確率の半分以下という確率が出ています。
むしろアパレル経営上、最も警戒すべきは「③売上・在庫・生産」の需給調整期間、「④消費不況期間」であると考えています。
新型コロナは薬やワクチンによりいずれ終息しますが、コロナが発端となった不況はそれよりも長期間続くからであります。
当社ではコロナ禍における経営相談を何件か受けておりますが、各社ともおかれている状況は様々であります。
しかし一つ言えることは、つき詰めて言いますと問題となっているのはコロナ自体ではなくこれまで抱えていた経営上の課題であり、コロナによりそれが顕在化しているということであります。
こうしたことからもコロナの疾病と同じように、企業においても課題を克服し基礎体力をつけ、基礎疾患がない状態になっていくことがこの危機を乗り越えるのに最も重要だと考えています。
現時点は「②反動消費」フェーズにありますのでこの1、2ヶ月は来るべき「③売上・在庫・生産」の需給調整期間、「④消費不況期間」に備えるための重要な期間であると考えています。
厳しい時代でありますがこの危機を乗り越えられることを切に願っております。
当社はアパレル・ファッションビジネス経営を強くすることで、「ファッションが楽しい社会を創る」ことを事業目的としています。
今回のブログが貴社のアパレル・ファッションビジネス経営にお役にたてれば光栄です。
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