皆さまご存知の通り、新型コロナウィルスの蔓延に伴う自粛と消費不振。

また国から発令された緊急事態宣言は、アパレル・ファッションビジネス業界に関わらず日本経済に甚大な影響を及ぼしております。

こうした状況下、ご相談が多い「アパレル・ファッションの経営者が今やるべき2つのこと」については前回のブログでご説明させて頂いたところであります。

続いて、次にご相談の多い点について当社のアパレル・ファッションビジネス経営の専門家としての見解をご説明させて頂きます。

尚、これらの見解においては、世間一般の経営学的な見解や、教科書的なマーケティングではなく、アパレル・ファッションビジネス経営の専門家として独自の実務経験に基づく見解であることを申し添えさせて頂きます。

コロナ禍影響下におけるアパレル経営の考え方

さて、現在お受けしているアパレル・ファッション業界の経営者様から多い質問として、「コロナ禍影響下におけるアパレル経営をどう考えたらよいか」というものがございます。

ずばりこうした言葉でご質問されているわけではなく、ご整理されていない場合も多いのですが、要はアパレル経営をどうしたら良いかということでの質問でございます。

またこれらのご相談の背景として最近良く聞くワードがございます。

自分で言っていて何ではありますが、特にコンサルタントといった職業の方はこうした議論が大好きなようで、必ず次のようなコメントをいたします。

「市場は元には戻らない」

「パラダイムシフトが起こる」

こうしたワードは皆さまもネットやメディア等で耳にするところであるかと思います。

一部のアパレル大手企業では、リアル店舗を大幅に削減しEC販売へシフトしている先もあります。

またオンライン接客が出来るアプリを導入するといった動きがみられます。

これらの経営戦略や施策が正しいかどうかについて当社は口をはさむ立場ではありません。

そうした動きをみて「うちも早急に何かしなくては」と考えるアパレル・ファッションビジネスの経営者様も多いと思います。

しかし、結論から先に申し上げますと当社では次の一言でご回答しております。

「今は行動するべきではありません」

それと合わせて、前回ブログでご案内した「今するべき2つのこと」を徹底してくださいとご説明しております。

つまり先のことは考えず「生き残ること」に徹してくださいとご説明しているところであります。

これには理由がございます。

なぜなら、こうした不安にかられた状況下では、アパレル・ファッションビジネスの経営判断を誤りやすい罠があるからです。

コロナ過、緊急事態で陥りやすい3つの罠

ここでは陥りやすい「3つの罠」についてご説明いたします。

盲目的な経営判断を行いやすい

会社の経営判断、つまり経営の方向性や経営戦略を考えられるのは、会社を取り巻く経営環境、例えば消費者のマインドや市場環境、社会の情勢、取引先の状況、これらの情報が一定的に把握できる状態で初めて成り立ちます。

しかし経営判断を行ううえでの情報が現在(4月27日時点)において全くと言っていいほど未知数でございます。

コロナが何時終息するかもわかりませんし、消費者のマインドや、社会情勢が今後どのように変化するかも全く見えないわけであります。

こうした不透明な経営環境下においての経営判断は非常に盲目的となりやすい傾向があります。

この状況は今まさに起きているコロナ禍の状況を見れば一目両全でしょう。

当社は評論家ではありませんのでこれらの細かいところにコメントするつもりはございません。

現在、日々、テレビやネットで政治家、医療関係者、評論家、コメンテーターなど様々な方が意見を述べ賑わっております。

国が何か施策を打ち立てればそれに対する反対意見、誰かが何かを言えば個人批判が沸き起こります。中には冷静さを欠きヒステリックな論理を振りかざすかたもおられます。

これら一人ひとりの方は非常に優秀な方ばかりだと考えるわけでありますが、なぜこれだけ冷静さを欠き混乱しているのでしょうか。

それは、問題である新型コロナウィルスに関する「情報」が少ないからであります。

次は、毎日朝から晩までニュースで行われている議論であります

・検査数が少ないので日本には、どれくらいの感染者が実際に存在するのか解らない

・実際の感染者数が解らないので重篤化率、死亡率も解らない

・なぜ日本では死亡者が少ないのかの理由も良く解らない

・なぜ医療のプロである病院で院内感染が拡大するのか解らない

・どれくらいの方に抗体は出来ているのか解らないので抗体検査をすべきではないか

・抗体は本当に有効なのか解っていない、再発の可能性もある

・特効薬(アビガン)は有効なのか、ワクチンはいつできるのか解らない

・第二派、第三派がくるかもしれない

つまり情報が解らないことばかりで全く不透明なわけであります。

そして、情報が薄く実態が見えない中での判断、対策は、精度や実効性が脆弱となり目的も曖昧となります。

それが故に、実行策、対策においても、それが良いのか悪いのか、有効なのか、正しいかそうでないかといった議論が紛糾するわけであります。さらにコロナ禍の問題は、経済問題にまで波及し、事態はより深刻となり、迷走していくわけであります。

このあたりの説明は評論家ではないのでここまでといたしますが、ここで言いたいのは状況が不明な中では判断、対策を打ちにくいということであります。

そしてアパレル・ファッションビジネス経営においても現在情報が少なく不透明な環境下におかれています。

例えば

・緊急事態宣言はいつ解除されるのか

・解除される業種はどこなのか

・どの地域から解除されるのか

・コロナ禍終息後の消費者のマインドはどうなるのか

・景気はどれだけ悪化するのか

・国からの支援先はこの先どのようなものが出来るのか

・メーカーや工場の供給体制はどうなっているのか

こうした状況でありますので、非常に不安となるのは理解できます。

中にはアパレル・ファッションビジネス業界が壊滅するのではないかと恐怖感を抱くかたもいらっしゃるかもしれません。

そうした中、EC販売のシフトや、AIの導入など、経営として大きな判断をしたくなる方もいらっしゃるかと思います。中には業態や業界変更を真剣に考えるアパレル経営者のかたもいるかもしれません。

しかし先ほどご説明しました通り、情報が薄く実態が見えない中での判断、対策は、精度や実効性が脆弱となり目的も曖昧となります。

つまり盲目的な経営判断となるわけです。

時間が経てば新型コロナの情報も少しずつ明らかになるでしょう。

またアパレル・ファッションビジネス業界における影響も実態が見えてくるでしょう。

そう長い時間はかからないと思います。

アパレル経営において重要な判断はこれらの情報が見えてきてからでも大丈夫です。

今は大きな経営判断が出来ない状況でございますので、「今は何もするべきではありません」と申し上げするわけであります。

場当たり的な対策、施策に溺れやすい

現在のように状況が見えないなかで不安にかられ行う対策、施策はほぼ失敗いたします。

特に売上がなく手持ちの現金が日々減少し、金融機関への返済や、家賃の支払に追われ資金繰りが窮迫していきますと、恐怖心にかられていきます。

そして冷静な判断を欠き「何か新しいことをしなければ」「このままでは」といった衝動にかられ何らかの施策を打ち立てていきます。

当社(私有馬)はバブル崩壊後の不況、リーマンショックといった不況のなかで、数多くの苦しむ企業を見てきました。

殆どの会社は業績が悪化するなかで、十分な計画や試算もせず、場当たり的な施策を打ち立てていました。

しかし試算表を見ると採算性が合わず、やればやるほど自分の首を絞めていくといった事例が多くありました。

というかそうした事例しか見たことがありません。

本人たちは一生懸命頑張っている。でもやればやるほど業績は悪化していくという負のスパイラルが生じやすいわけであります。

例えば、今のコロナ禍のなかで起きている事例で申し上げいたしますと、夜間営業の短縮を余儀なくされた居酒屋が宅配業務に進出する施策があげられます。

ビジネス系の報道番組などで「コロナ影響下で頑張る中小企業」みたいに報じられているのを見たことはないでしょうか。

見ているほうも「頑張って」と応援したくなりますし、気持ちも痛いほど理解できます。

しかし当社がこうした居酒屋店のクライアントであればこうした施策はお勧めいたしません。

同じ飲食業でも居酒屋店と宅配業では全く業態が違いますし提供している商品価値も違います。

また宅配業の市場の大きさは「宅配可能圏内の昼食人口」でほぼ決まっています。

つまり宅配可能な地域の胃袋の数で決まるわけです。

さらにテレワークの普及などにより場所によっては宅配可能圏内の昼食人口が減っている可能性もあります。

住宅地であれば巣籠り需要が増えているとも考えられますが、居酒屋という業態上、殆どは商業地域に立地しているわけであります。

そうした中で、競合先も仕出し弁当業者、ピザやお寿司の宅配業者、昼食専門の飲食店、コンビニなんかも強力な競合先として存在しているわけであります。

つまり限定された市場の中、需要自体も減っている、そうした中、層々たる強力な競合がひしめいているわけであります。

そうした中で、居酒屋店が不慣れな宅配に進出したところで採算が取れるとは考えられません。

配送費、配送人件費を考えると赤字配送となっている場合もあったりします。

しかし多くの業績不振の企業では採算性が合わなくてもこうした施策をいつまでも継続していきます。

理由はこうした施策を実施することで精神的な安心感を得られるからです。

何もせず預金通帳を見ているだけというのは精神的に非常に苦しいものがあります。

こうした施策を行っていますと調理に集中することも出来ますし、

宅配で汗をかいているときはそうした不安から解放されます。

何かをやることで今の不安から逃れられるのであります。しかし売上減少における本質的な問題は解消されていないわけですから業績は何ら改善しないわけであります。

他にも過去よく見かけた事例ですと、売上不振の旅館が何やらよくわからない物販をはじめたり、アパレルショップでも「洋服は売れないから」などといって隣にコスメショップがあるにも関わらずコスメの販売をはじめたりした事例を見たことがあります。

仕入れ先と交渉したり、商品を検討したり、陳列をしている間は先ほどご説明したような安心感を得られますので採算性が合わないものでもこうした取り組みがずるずると続くわけであります。

そして、気が付いたら、不良在庫の山をつくり資金状態をさらに悪化させていたりするわけであります。

各社の置かれている状況は違うかもしれませんが、こうした取組みや施策はお勧めしておりません。

もしやるのであれば十分な計画と試算、本当に儲かっているのかなどの検証を随時行っていくべきかと考えております。

「外部に作られた需要」にまどわされやすい

世の中が不況となり、苦しい経営環境におかれると、希望の光が見えてくる場合がございます。

それは国による支援施策である場合もございます。

例えばバブル崩壊のあとは公共投資により建設業界が潤いました。リーマンショック、東日本大震災の時は「観光立国」という施策が推進されました。

以下、後者について観光庁の文章をもとに少し解説したいと思います。

観光立国政策とは、2006年制定の観光立国推進基本法に基づき推進されたもので

1)国内旅行消費額を21兆円にする

2)訪日外国人旅行者数を4,000万人にする

3)訪日外国人旅行消費額を8兆円にする

等の目標を掲げたものであります。

そして2016年には観光立国推進基本計画が公表されました。

そこには「明日の日本を支える観光ビジョンを踏まえ、観光は我が国の成長戦略の柱、地方創生への切り札であるという認識の下、拡大する世界の観光需要を取り込み、世界が訪れたくなる「観光先進国・日本」への飛躍を図ることとしています」と規定されております。

つまり観光立国政策は国をあげての一大需要創造戦略であったわけであります。

そして2020年の東京オリンピックの実現でこれらの計画目標は達成できる見込みであったと言われていました。

しかし結果はどうだったでしょうか。

コロナ禍の影響をうけ東京オリンピックは中止。

3月のインバンドの数は前年を90%以上の減とも言われております。

4月においても地域の観光地は壊滅的なダメージを受けると言われています。

つまり十年以上にわたり国をあげて取り組んできた需要創造政策がわずか3ヶ月で崩れ去ったわけであります。

観光地、旅館、ホテル等の方々が窮地に立たされているのはテレビや新聞での報道でご存知かと思います。

日本国民としても非常に残念でしかたありません。

またこうした観光業や従事されている方への手厚い支援を強く望むところであります。

以上、観光立国政策をご説明したところでありますが、お話したいのは、インバウンドに依存する観光地の旅館、ホテルは、なぜ窮地に立たされたということです。

もちろんコロナ禍の影響が最も強いわけであります。

しかし、こうした時期に大変不謹慎ではあるのですが本質的なところはそこではないと考えております。

誤解を恐れずに言いますと「外部に作られた需要」に依存していたといったところにあるのではないでしょうか。

「外部に作られた需要」は外部によって作られたものですから、それが無くなった場合、もはやどうにもならなくなるわけです。

一方で同じ旅館やホテルでも、インバウンドに依存しない国内リピート客をターゲットとした先もあります。

そうした先はインバウンドに依存する旅館やホテルよりもダメージは少ないといわれております。

星野リゾートの星野氏ですら、しばらくはインバンドではなく「地域の需要発掘に努める」といっております。

この星野氏のコメントには非常に多くの意味を持っているものと考えますのでブログ等をご覧になられるのも良いかと考えます。

話をもとに戻します

「外部に作られた需要」の反対は「創り出した需要」です。

「創り出した需要」とは、自店のコンセプトやターゲット、サービスや商品を洗練させ、愛顧によりお客様から「選ばれる」ということであります。大事な部分はそこにあるのではないかと考えるわけであります。

そして「外部に作られた需要」は国の政策だけで生じるものではありません。

時期、時流により生じるものがあります。

今、アパレル・ファッション業界でも唯一売れているアイテムがございます。

それは皆さまもご存知の通り「マスク」です。

海外ブランドもふくめファッション性の高いマスクを作りはじめております。

私もatmosの布マスクを入手しております。

また「外部に作られた需要」アイテムではなく、販路として発生する場合もございます。

これも皆さまご存知の通りEC市場でございます。

アパレル・ファッションの販路でも、百貨店やショッピングセンター、ファッションビルが大打撃を受けているなか、唯一EC市場は売上が前年を超えております。当面こうした傾向は続くと考えられます。

アパレル・ファッションビジネスにおけるEC化については下記のブログでもご紹介しております。ご興味がございましたらご覧くださいませ。

アパレル・ファッションビジネスにおけるEC化の注意点。まず確認したい大切な事。

苦しい中、先の見えない中、こうした「作られた需要」に飛びつきたくなる気持ちは良くわかります。

先ほどご説明した巷に流れる「元にはもどらない」「パラダイムシフト」といったワードもその気持ちを後押しすることもあるかと思います。

しかしお願いしたいことは、何か新しい戦略や取組みを始める際に重要なのは、それは「創り出した需要」かどうかということだと考えます。

もっとも「外部に作られた需要」であってもそれはそれで割り切って目の前の餅を取りに行くことは否定しません。

大事なのは自覚しているかどうかであると考えるわけであります。

アパレル経営「3つの罠」の事例

実は先日、知人からのご紹介で、これらの「3つの罠」の全てにはまってらっしゃる方からのご相談を頂きました。

ショッピングセンターの休業に伴い、営業が出来なくなったショップ様であります。

情報がまったく不確定の中、「もう対面販売はだめだ」「店舗は締める」と言いながら、EC販売を中心に進めていくと言い、見よう見まねでネットサイトを立ち上げたそうです。

当社へのご相談はそのサイトの問題を教えて欲しいというものでした。

またスタッフも休業させず人件費をじゃぶじゃぶ使い社長も一緒になりパソコンとスマホをピコピコやっていると言います。

それでも売れないものだから、何が売れるのかとマスクの仕入先を探したりしているそうです。

一方で前回のブログでご説明した「アパレル・ファッションの経営者が今やるべき2つのこと」は殆どやっていないということでした。

完全に冷静さを欠いていましたのでご説明に時間がかかりましたがご理解していただけたようです。

そして最後に「お店の再開を楽しみにされている顧客様もいらっしゃいますよね。今は2つの対策を行ったうえで、そうした顧客様にこのあと何が出来るかを考えましょう」とご説明いたしました。

だいぶ落ち着き前向きになられたようでした。

コロナ過、緊急事態で陥りやすい3つの罠まとめ

以上、コロナ禍影響下 アパレル経営で注意して欲しい「3つの罠」についてご説明をさせて頂きました。

不透明な経営環境下、不安な状況におかれ、財務的にもかなりのダメージを受けられている会社様も多いと考えます。

ここでは概略のみで、具体的な再建方法については各社の状況にもよりますのでご説明することは出来ません。是非、当社の無料相談会(電話、メール、ZOOM会議等)をご活用頂ければと思います。

次回、ご質問、ご相談が多いものとして、「アフターコロナ禍におけるアパレル消費市場の考察」について近日中に公開予定であります。

当社はアパレル・ファッションビジネス経営を強くすることで、「ファッションが楽しい社会を創る」ことを事業目的としています。今回のブログが貴社のアパレル・ファッションビジネス経営にお役にたてれば光栄です。

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