アパレル経営 コロナ不況で「勝ち組」「負け組」の「二極化」が鮮明に
緊急事態宣言が解除され4ヶ月が経過し、市場全体の状況も見えてきました。
アパレルには厳しい経営環境でありますが、その影響は一律ではありません。
「勝ち組」「負け組」の「二極化」傾向が見て取れます。
今回はその状況と要因について考察しています。
コロナ不況におけるアパレル業界
コロナ不況により、アパレル業界が苦しい状況に置かれている状況と言われています。
メディア等での報道では、オンワードホールディングス、ワールド、TSIホールディングス、三陽商会などの大手4社で3000店以上の店舗を閉鎖すると言われています。
大手だけでこの数値ですので実際の店舗の閉店はさらに大きな数値となるでしょう。
実際にショッピングセンターやファッションビルでも閉店する店舗をよく見かけるようになりました。
アパレル関連倒産件数
また新型コロナに関連する倒産件数も帝国データバンクの集計(10月9日時点)によると、アパレル関係(小売、製造、卸)では87件となり、同じくダメージの大きい飲食店86件、旅館・ホテル59件を超え最も多いい件数となっています。
こうした状況を見ると、業界全体が存亡の危機にさらされているようにみえるわけであります。
アパレルコンサルタントの現場からの視点
しかしアパレル企業を支援する現場の立場から言わせて頂くと、こうした報道はすべてをとらえているわけではないと考えます。
確かに苦しんでいるアパレル企業は多く、経営環境は厳しい状況ですが深刻な影響を受けていない、もしくは逆に昨対を大きく超えている企業や店舗があるのも事実です。
特にライフスタイルスタイルショップといわれる業態ではこの傾向が顕著です。純粋なアパレルショップでもこうした傾向が見られます。
アパレル業界の二極化
緊急事態宣言が発出された4月~5月は営業自体が出来ないため、どうにもならない状況でありました。
しかし6月、7月あたりは緊急事態宣言の反動消費と、定額給付金の効果もあり、昨対売上をクリアする店舗も見えてきました。
中には昨対140~160といった数値で推移している企業や店舗もありました。
そして、こうした傾向は8月、9月になっても変わることはなく、好調なところは相変わらずに好調です。特に昨年9月は消費税の駆け込み需要があったわけですが、そうした9月でさえも昨対を超えているアパレル企業や店舗があるのです。
先ほど見たメディア等で報道される厳しい状況もある一方で、好調なアパレル企業や店舗も一部ではあるわけです。
勝ち組、負け組の二極化
こうした状況を見ると、厳しい経営環境の中「勝ち組」と「負け組」が完全に「二極化」している状況にあると考えています。
この「二極化」は、大手アパレル間でも生じていますし、中小アパレル間、店舗間、さらには販売スタッフ間でも生じているとみています。
そしてこうした現象は、アパレル業界だけではなく、同じく新型コロナで深刻な影響を受けている観光業、飲食業でも発生しています。
観光業ではGOTOトラベルキャンペーンが行われていますが、賑わいを取り戻している観光地とそうでない観光地が「二極化」しています。
また同じ観光地内でも予約が埋まっている宿泊施設と相変らず閑散している宿泊施設があります。
飲食業でも、賑わいを取り戻しているお店とそうでないお店が鮮明となっています。
このようにいうと、アパレル業界ではEC化率が高いのではないかとか、観光業や飲食店では、感染症対策をしっかりやっているから売れているのではないかと考える方もいらっしゃると思います。
しかし当社が確認している事例のアパレル企業ではEC化はゼロに近い状況です。
また宿泊施設や飲食店での感染症対策の実施状況と賑わいが戻っているかは全く相関関係がありません。
宿泊施設や、飲食店などでは、むしろ過度な感染症対策を行っているところほど、賑わいが戻っていないとも言えます。
飲食店では距離を保つための入店制限や対面接客の廃止、宿泊施設ではビッフェの廃止、大浴場の閉鎖などの対策です。
アパレル業界におけるEC化も「勝ち組」になるか「負け組」になるかには相関関係がありません。
売れる企業や店舗はどの業種でも、リアル店舗でも売れますし、このお店で買いたい、この販売員から買いたいと思われるところは客足も戻ってきているように感じます。
それではなぜ、こうした「二極化」現象がアパレル業界に限らず生じているのでしょうか。
それは消費者の消費マインドが変化しているからです。
俗にいう「アウターコロナ」「ニューノーマル」といったものではなく、経済的側面から生じるリアルな消費マインドの変化です。
消費マインドの変化
次は日本生産性本部が実施したアンケートとなります。
(日本生産性本部10月16日「第三回働く人の意識に関する調査」
新型コロナによる経済的なダメージは消費者の意識にも大きく影響を与えていることが見てとれます。
実に6割近い方が雇用や収入に不安を感じており、その傾向は5月よりも10月の方が大きくなっています。会社の倒産、リストラ、残業の減少、配偶者のパート収入の減少、こうしたところが徐々に身近なものとして現実化してきているためと考えられます。
この現象が生じると、つまりこうした「不安」が生じると、消費を減らし貯蓄を行うようになります。
つまり消費自体を自粛するようになるわけです。
これはバブル不況、リーマンショック時にも起きていた傾向で、「消費不況」と言われる状況です。すでにこの状態となっていると考えています。
それでもアパレル消費自体が無くなったわけではありません。
「アフターコロナ」、「ニューノーマル」を説く方々の中には「外出の機会が少なくなったから洋服は買わなくなる」という方もおられますし、実際にそうした層もいらっしゃるのも事実です。
しかしながらファッションを楽しむのは人間の本能ですので、収入は減ってもおしゃれはしたいし、ショッピングもしたいのです。これは「文化的な生活をおくりたい」という方であれば当然の欲求であります。
そして、こうした時に起こるのが、消費する内容の厳選です。
雇用や収入の不安から財布の紐が固くなりますので、購入するブランド、店舗、アイテム、販売員を厳選していくことになります。少ない予算で、私にとって価値のあるもの、私らしいファッションやライフスタイルを厳選して購入していくことになります。
また手持ちの服を活用しておしゃれしたいという意識もうまれます。
次は最近の女性ファッション誌にある見出しです。実にこのあたりの傾向が見て取れます。
- 「少ない服でも自分らしいスタイルはつくれる!本当に必要な服(Gina2020Fall)」
- 「今、本当に必要な秋トレンド5アイテム (with10 月号)」
- 「合わせる服を変えればタンスの肥やし服はよみがえる!(ハルメク10月号)」
- 「厳選のアイテムを最大限にフル活用! 8枚で 15STYLE(Gina2020Fall)」
消費者は、雇用や収入に不安のある中、少ない予算で厳選した消費を行っているわけです。
そうすると、お客さんにとっての価値を提供できないブランド、店舗、アイテム、販売員は厳選された消費の中で淘汰されていくことになります。
その結果が、先ほどご説明した「二極化」の大きな要因であると考えています。
二極化の要因
そうした要因であるとすると、EC化や、感染症対策の対応度合いが実際の売れ行きと相関関係がないのも理解できるでしょう。EC化は単に売り方の方法にすぎません。
お客さんからすれば、私にとって価値のあるもの、私らしいファッションやライフスタイルが実現できるのであれば実店舗でもECでも良いわけです。
実店舗でもそこが提供できれば影響は受けにくくなります。
逆にそこが提供できなければ、つまりどこにでもあるようなモノであれば価格に部があるECの方が優位となります。
どこでも買えるものであればわざわざ店舗にいくよりも安くECで購入した方がいいからです。
また宿泊施設や飲食店でも、本当に価値のあるサービスであれば、感染症対策の度合いに関わらず泊りに行きたいし食べにいきたくなるのでしょう。
それがアパレル業界に限らず、「勝ち組」と「負け組」が「二極化」する要因であると考えます。
アパレル経営における注意点
以上が現在生じている「二極化」の原因であると考えるわけであります。
そしてアパレル経営において注意しないとならないのが次のことです。
緊急事態宣言後の6月から10月現在において昨対を大きくクリアしている月が多いい企業、ブランド、店舗においては、それが本当の実力であるかどうかです。
つまりお客さんにとって価値のあるもの、ファッションやライフスタイルが提供出来ている結果かどうかです。
入居する施設が休業要請の対象にならなかったとか、路面店であるためといった外部要因からきているのであれば単なる特需ですので注意が必要です。
逆に6月から10月現在において殆どの月で昨対を割っているところは「負け組」になっている可能性が濃厚です。
こうした企業、店舗の特徴としては、「新型コロナが終息すれば客足は戻る」「周りの店舗も昨対を割っているので仕方ない」といった感覚で見ているように感じます。
これは典型的な「負け組」の論理で「みんなで負ければ怖くない」といっているのも同然です。
しかし残念ながら新型コロナが終息してもこうしたアパレル企業、店舗には客足が戻ることはないでしょう。
その理由は、新型コロナは終息しても「消費不況」自体は終息しないからです。この点については次のブログで説明したところであります。
つまり新型コロナが終息しても不況による消費が厳選されるため、「二極化」現象は長期間に及び続く可能性があるからです。もしこうした状況にあるのであれば早急に対策を打つ必要があると考えます。
まとめとして
以上、コロナ不況における「二極化」現象について説明してきました。
アパレルの経営環境自体が厳しいのは事実だと考えます。
しかし大事なのはアパレル経営にとっての本質を見失わないこと。
企業もブランドも店舗も販売員も自らの提供価値を理解し消費者に届けること。
メディア等の報道や雑音に流されず本質を追求できるかだと考えます。
当社はアパレル・ファッションビジネス経営を強くすることで、「ファッションが楽しい社会を創る」ことを事業目的としています。
今回のブログが貴社のアパレル・ファッションビジネス経営にお役にたてれば光栄です。